岩渕弘信准教授が紫外からマイクロ波の波長帯における温度に依存した氷の屈折率のデータセットを作成し、論文誌 Journal of Quantitative Spectroscopy and Radiative Transfer に発表しました。
紫外線からマイクロ波の波長域について温度に依存した氷の屈折率のデータセットを作成しました。従来は赤外波長帯またはより短い波長では 氷の屈折率は温度に依存しないと仮定して、-7˚C程度の高い温度の屈折率を用いることが一般的でした。この研究では過去に発表されてい る多くの測定結果を広い波長域と温度域について信頼できるデータを収集し、理論的または経験的な式を用いて、温度160Kから270Kの 範囲で最適な屈折率を求めました。その結果、中間赤外の波長帯、またはマイクロ波のようにより長い波長の場合に氷の屈折率は温度に対して 強い依存性を持ち(図1)、近赤外波長域でも波長によっては無視できない温度依存性があることが示されました。赤外波長の11ミクロンと 12ミクロンの波長で、氷雲の光学特性を計算した結果、温度によって無視できないほどの差があることがわかりま した。
対流圏上部にできる巻雲は-40˚Cから–80˚Cの温度帯に存在し、地球の放射収支に重要な役割を持っています。赤外波長を用いた氷雲 のリモートセンシングでは温度依存性は無視できず、雲の温度に応じた適切な屈折率を用いる必要があることが示されました。
この研究の結果は、論文誌 Journal of Quantitative Spectroscopy and Radiative Transfer の8月号に発表しました。新しい屈折率のデータセットは論文のウェブサイトから入手できるほか、著者まで要求を頂ければ提供いたします。
発表論文
Iwabuchi, H., and P. Yang, 2011: Temperature-dependence of ice optical constants: Implications for simulating the single-scattering properties of cold ice clouds. J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transfer, 112, 2520-2525.
図1. 赤外波長帯における氷の屈折率.横軸は波長、上の図の縦軸は屈折率の実部、下の図の縦軸は屈折率の居部.Tは温度.