2013年10月30日から11月4日まで、日本学術振興会の二国間共同研究「東アジア広域に拡散するスス粒子の変質と光学的特性」(研究代表者:張代洲・熊本県立大学教授、研究協力者:早坂、片桐、他)の一環として中国海洋大学(青島)、山東大学(済南)を訪問した。青島はかつてドイツの租借地があったこともあり、旧市街地の一部は小さな丘陵地帯に美しい西洋風の建物が見られる。大気汚染や交通渋滞が無ければ、より魅力的な街になるだろう。一方、青島から済南までの列車の窓からは、smokeまたはsmogと思われる状況が見られ、景色全体が白っぽく霞んでいて視程は極めて悪い。この地域はPM2.5の増加に代表される大気汚染が注目されているが、改めて大気汚染の深刻さを実感した。 中国海洋大学は海洋に関する総合大学で、研究分野は物理、化学、水産学はもとより、大気科学、経済学、海洋を対象とする芸術文化にまで及ぶ。ワークショップでは、中国側の船舶を用いた大気観測が積極的に行なわれていることや、特にNew particle formationに関する発表がいくつかあり印象に残った。また、山東大学は、孔子誕生の地である山東省ではトップの大学であり、歴史も110年以上有する(創立は1901年)。街の比較的中心部近くにあるキャンパスには30階建ての近代的な本部ビルがある一方、街には筆者が二十数年前に初めて中国(北京)を訪問した頃の少し古い風情も残っている。ここでは、エアロゾルに関する地上での総合観測の報告がいくつかあった。特にブラックカーボンとダストエアロゾルに関する話題が中心である。複数の化学成分をエアロゾルとガスいついて同時に観測する測器など、興味深い観測も紹介された。 今回は、3年半ぶりの中国訪問であったが、中国における大気の物理化学に関する観測の進展は目覚ましいものがある。総合的な観測サイトが数多く設置され、おそらく量的には今や日本よりも中国の方が最先端観測機器の数は多いと思われる。研究対象となる大気も大気汚染と黄砂に代表されるダストエアロゾル等興味深いものがある。単に観測を実施してデータ解析を行い、考察を加えるという研究は今後も中国から多くの研究発表があるだろう。したがって今後は、大量の観測データをどのように使うのかというアイデアが重要になる。個々の粒子の形状や化学組成に関する研究を放射特性、ひいては放射強制力等の定量的な評価にいかにつなげるのかということが課題となる。