2018/4/3 (Tue.),H. Iwabuchi
Fig. 1. Corona display by a waveform cirrostratus cloud observed at 13:09 on March 19, 2018 at Tohoku University in Sendai, Japan.
2018年3月19日13時JST頃,巻層雲による鮮やかな光冠が見えた (Fig. 1)。太陽を建物で遮蔽してiPhoneのHDRモードで撮影すると,綺麗な光冠が撮れた。色の彩度が誇張されているのはiPhoneの画像処理の効果だろう。内側から数えて1, 2番目の赤いリングの視直径はそれぞれ2.5, 4度くらいと思われる。ハロは見えない。ライダーの観測図 (Fig. 2) を見ると,この時間帯には高度11 km付近に厚さ100 m程度の非常に薄い雲があり,その下は晴れている。強い後方散乱と共に偏光解消比は0.3以上を示している。雲の種類としては巻層雲,その中でも,波状の構造が見られたことから,波状雲と呼ばれるタイプと思われる。GPVで調べると温度は約 –57˚Cである。この温度では過冷却水滴も存在し得ないので,氷晶が光冠を見せていると考えられる。
今回の光冠は,花粉光冠よりは明らかに輪が大きい。花粉光冠では2番目の赤いリングの視直径が2.5度くらいだったから,花粉が直径30 µmとすると,今回の氷晶の直径は大雑把に見積もって20 µmである。GPVの気象データを見ると,この時の対流圏界面は約12 kmくらいと見積もられた。200 hPa面(約12 km)がおよそ対流圏界面であり,55 m/s程度の西風が吹いており,宮城県から風下(東)側300 kmくらいの領域だけが特別に気温が低い。150, 200, 250 hPa面(約13.6, 11.8, 10.4 kmにど相当)の気温はそれぞれ,–54, –60, –55˚Cであった。気象衛星ひまわり8号の可視画像を見ると,この時は西側から厚い上層雲の集団が移動してきており,仙台市付近はその雲群の端に位置していた。仙台市上空は薄い上層雲がかかっており,仙台市からその東にかけて雲が消散していく様子が見られた。
氷晶雲がこのように光冠を見せることは珍しい現象である。鮮やかな光冠は,直径10–30 µmの非常に小さな,均一な大きさの粒子が存在するときに見られることが過去30年間の研究から明らかとなった。光冠を見せている氷晶が同じ生成メカニズムで生成して間もないものであることが推測されている。過去の研究でも,光冠を見せる氷晶雲は対流圏界面付近に現れ,高い偏光解消比 (0.5–0.7の値) を示すことが報告されている。このような氷晶雲は,特殊な形状(縦横比1に近い角柱)の小さな粒子で構成されており,成層圏に由来する硫酸が氷晶核形成に関与してる可能性が示されている。
Fig. 2. Lidar measurement result for March 19, 2018 at Tohoku Univ. observation site in Sendai, Japan.