深層学習 (deep learning) を用いて人工衛星による多波長・多画素観測データから雲物理量を推定する新手法を開発しました (Okamura, Iwabuchi, Schmidt, 2017)。大気のリモートセンシングに深層学習を活用した研究としては(私たちの知る限り)世界初です。
本研究では,近赤外と短波長赤外域の複数波長の反射光画像データを入力として,雲物理特性(雲の光学的厚さおよび雲粒有効半径)を複数の画素について同時に推定する深層学習モデルを構築しました。高解像度の大気モデルで再現された雲の3次元分布を仮定して,3次元大気放射伝達モデルを用いて人工衛星から観測される放射輝度を計算し,これを擬似観測データとみなして雲物理特性を逆に推定し,始めに仮定した雲物理特性のデータと比較することで,雲物理特性推定手法の精度を評価しました。提案した手法では,雲の光学的厚さ,雲粒有効半径ともに既存の推定手法 (IPA)よりも誤差が小さく,特に雲粒有効半径の推定において,顕著な改善がみられました(図1)。
深層学習を用いると大量のデータから特徴量の自動抽出ができる利点があります。従来は実現困難であった複雑な推定・予測・診断の問題解決に深層学習が有効であることが示されました。
図1: 光学的厚さ (cloud optical thickness)(左)と雲粒有効半径 (droplet effective radius)(右)の真値 (True)(上段),従来の手法 (IPA) による推定値(中段),本研究で提案した手法 (DNN) による推定値(下段)。太陽高度が低く、画面左から斜めに光が入射しているため、3次元的な放射伝達の効果がIPAの推定値に大きなバイアスを生じさせている。DNNでは,真値に近い値が推定されており,高精度の推定ができていることがわかる。
Publication
Okamura, R., Iwabuchi, H., and Schmidt, K. S.: Feasibility study of multi-pixel retrieval of optical thickness and droplet effective radius of inhomogeneous clouds using deep learning, Atmos. Meas. Tech., 10, 4747-4759, https://doi.org/10.5194/amt-10-4747-2017, 2017.