宇宙からの航跡雲の観測: 人間活動によって雲はどう変わるか?

大気汚染物質や森林火災に起因する人為起源エアロゾル粒子の増加は雲と降水の分布を変え、地球の気候に対して地域的にも全地球的にも影響を与えると考えられています。一部のエアロゾル粒子は雲粒の凝結核となって雲粒の数を増やし、平均的な雲粒の大きさは小さくなり、雲の反射率が増加します。また、降水を減らし、雲の寿命を延ばす効果もあると考えられていま す。しかし、これらの効果の定量的な見積りには不確定性が大きく、将来の気候予測を確かなものにするために最も重要な課題の一つと考えられています。

図1は北太平洋上の層雲について光学的厚さと雲粒有効半径を求めた例です。画像には何本もの筋が見えますが、これは海上を通った船の航跡に対応しています。船から排出された物質がエアロゾルとなり、雲粒の平均サイズが小さくなり、光学的厚さを増大させています。光学的厚さが大きいと日射を反射しやすく、地表に到達する日射が減ります。人間活動が雲の性質を変化させている事例として興味深いです。

このように、雲とエアロゾルの気候影響を調べるために、広域を観測できる衛星観測は有力な手段となります。私たちの研究 室では、衛星・地上観測データの解析によって、エアロゾルの気候影響評価の不確定性低減を目指しています。

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図1. NOAA衛星搭載AVHRRデータを用いて推定された雲の光学的厚さ(左)と雲粒有効半径(右)の例。北太平洋上の層雲 の例。1994年7月29日、21時 (UTC)。