研究成果紹介 No.4

 

二酸化炭素濃度の鉛直分布から推定された新たな陸域炭素収支像

現在、化石燃料の消費や熱帯域における森林破壊によって大量の二酸化炭素(CO2)が放出されており、その一部が大気に残留し、大気中濃度を増加させています。残りのCO2は陸上植物と海洋に吸収されているはずですが、その量と分布が正確に分かっていないことが今日の炭素循環の理解における大きな懸案です。

陸上植物によるCO2吸収については様々な手法を用いて研究がなされており、特に大気輸送モデルを用いて、観測された大気中のCO2濃度変動を再現する地表面CO2フラックスを求める「逆解法解析」は、陸域と海洋のフラックスの量と地理的情報を与えるので、近年活発に解析が試みられています。たとえば、世界の大気輸送モデルの相互比較研究を行っている「TransCom」グループが、世界の陸域と海洋をそれぞれ11に分割し(合計で22分割)、12の大気輸送モデルと地上観測の結果を用いて逆解法解析を行い(Transcom 3 Level 2 seasonal inversion experiment)、1992-1996年の平均として、赤道域の陸上生態系からは1.8GtC/年のCO2が放出され、北半球中高緯度の陸上生態系によってそれを上回る2.4GtC/年のCO2が吸収されていると主張されています(Stephens et al., 2007)。

逆解法解析にとって大気輸送モデルは極めて重要ですが、今日広く利用されているモデルが輸送場を適切に表現していない可能性も指摘されており、本学術創成研究費による研究でもPatra et al. (2006) がこのことを指摘しています。そこで今回、世界で航空機観測を行っている研究者がデータを持ち寄り、CO2濃度の鉛直分布の観点から、地表での観測結果を用いて逆解法解析によって推定された陸域CO2収支を改めて検討しました(Stephens et al., 2007)。

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図1 全球12地点で観測されたCO2濃度の年平均値の鉛直分布(左)、北半球の10地点での観測結果を平均した分布(左右の黒線)、および12の大気輸送モデルから求められた北半球の年平均CO2濃度の分布(右の赤線)。

現在、CO2の航空機観測は、東北大学、国立環境研究所、米国NOAA/ESRL、独国マックスプランク研究所、仏国LSCE、豪州CSIROなどで行われており、世界12地点での年平均CO2濃度の鉛直分布を、ハワイ・マウナロアの平均濃度からの偏差として図1に示します。陸上植物の現存量が多い北半球ではCO2濃度は下層で高く、上空に向かって低下し、南半球では逆の分布をとっています。陸上植物の現存量が少なく、CO2濃度の鉛直分布が主に北半球からの大気輸送で決まっている南半球での観測結果は、赤道から北半球にかけての陸域炭素収支を拘束するには十分な情報となりませんので、ここでは北半球の鉛直分布を再現するモデルの収支が信頼できるものとします。図1からも分かるように、北半球の10地点における年平均CO2濃度をさらに平均してみると、1kmと4kmでの濃度差は0.7ppmとなります。一方、逆解法に用いられた12の大気輸送モデルが計算する濃度差はまちまちであり、図1に示すように、0.3ppmから2ppmとかなり広い範囲となります。

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図2 12の大気輸送モデルが与える高度1kmと4kmにおける年平均CO2濃度の差と、それぞれのモデルが逆解法解析によって推定した北半球中高緯度の陸域CO2フラックス(赤)と熱帯の陸域CO2フラックス(青)との関係。灰色のハッチは観測から得られた1kmと4kmの濃度差である0.7ppmを表す。

図2は、各モデルが計算する赤道域のCO2放出量(正の値で示します)および北半球中高緯度のCO2吸収量(負の値で示します)と1-4kmの濃度差の関係を示しており、大きな濃度差を示すモデルはそれぞれの地域での放出量と吸収量を大きく評価する傾向にあります。観測された1-4kmの濃度差は0.7ppmであり、これに近い値を示すモデルは「4」、「5」、「C」です。これら3つのモデルの結果を平均すると、赤道域からの放出が0.1GtC/年、北半球中緯度の吸収が1.5GtC/年となり、上で述べた全モデルの平均とは大きく異なります。すなわち、森林破壊によって赤道域から大量のCO2が放出されているとしても、他の赤道域の森林がそれとほぼ同じ量のCO2を吸収しており、結果として北半球中高緯度の森林による吸収が従来の推定より少ないということを意味しています。

以上の結果は、今日広く受け入れられている陸域炭素収支に大きな変更を加え、地球表層における炭素循環の理解に新たな見直しを迫る可能性を示唆したものです。

 

参考文献

Stephens, B. B., Gurney, K. R., Tans, P., Sweeney, C., Peters, W., Bruhwiler, L., Ciais, P., Ramonet, M., Bousquet, P., Nakazawa, T., Aoki, S., Machida, T., Inoue, G., Vinnichenko, N., Lloyd, J., Langenfelds, R., Steele, P., Francey, R. and Denning, S., Weak northern and strong tropical land carbon uptake from vertical profiles of atmospheric CO2, Science, 316, 1732-1735, DOI:10.1126/science.1137004, 2007

Patra, P. K., Mikaloff-Fletcher, S. E., Ishijima, K., Maksyutov, S. and Nakazawa, T., Comparison of CO2 fluxes estimated using atmospheric and oceanic inversions, and role of fluxes and their interannual variability in simulating atmospheric CO2 concentrations, Atmos. Chem. Phys. Discuss., 6, 6801-6823, 2006.