研究成果紹介
No.9
大気観測が捕らえた化石燃料消費量増加の影響
近年、経済成長の著しい発展途上国からの二酸化炭素(CO2)放出量が増加して、大気中CO2濃度の上昇速度を加速しています。中でも中国は今や世界経済を牽引するまでに成長しCO2排出量も急増しています。
本研究では、波照間島において得られたCO2とメタンCH4の観測データを用いた解析から、中国からやってくる化石燃料起源CO2の発生量の増加傾向を明らかにしました。 →続きはこちら
No.8
大気中に放出された二酸化炭素の全球規模の輸送
二酸化炭素(CO2)は大気の主要な温室効果気体であり、その大気中での分布変動に関する情報は気候変動を理解する上で重要です。これまでに実施された航空機観測などから、大気循環パターンを反映して、地上付近だけではなく上空においてもCO2濃度の特徴的な分布変動が存在することが示されています。「いぶき」などの衛星観測により取得される鉛直積算濃度は、地上付近の濃度変動に加えて上空における濃度変動も大きく反映します。航空機および衛星による観測情報を基にして、地表付近の濃度変動および地表面における放出・吸収量を推定する上で、大気の運動が上空の濃度分布をどのように変動させているのかを理解することが重要となります。
そこで本研究では、航空機観測データと数値モデル計算を用いた解析から、全球規模のCO2の輸送過程と上空での分布変動要因を調査しました。詳細な輸送解析から、緯度帯・季節により異なる上空のCO2分布変動メカニズムを明らかにしました。 →続きはこちら
No.7
成層圏大気の平均年代は変化しているのか?
温室効果気体は、地表に近い対流圏だけではなく、より上層の成層圏にも広がって循環しています。この成層圏の物質循環を支配しているのが、ブリューワ・ドブソン循環と呼ばれる南北方向のゆるやかな大気輸送です。重要な温室効果気体である二酸化炭素(CO2)と六フッ化硫黄(SF6)は、大気中で極めて安定な成分であることから、成層圏の中でも化学的に壊されることなく、ブリューワ・ドブソン循環にのって輸送されます。この性質を利用すると、成層圏大気中のCO2とSF6の濃度から、成層圏大気の平均年代を推定し、さらにブリューワ・ドブソン循環の長期的な挙動を明らかにできると考えられます。
私たちは、日本・ドイツ・アメリカの各研究グループが実施してきた気球観測の結果を共有し、過去30年間にわたる平均年代の長期変化を調べ、新しい事実を発見しました。 →続きはこちら
No.6
南大洋における二酸化炭素吸収の低下
海洋は重要な二酸化炭素(CO2)の吸収源であり、吸収量とその地理的分布を推定するために多くの努力が払われてきました。特に南極周辺の南大洋は、大気—海洋間のCO2分圧測定の結果を基に、全海洋吸収量の1/2あるいは1/3にも及ぶ大量のCO2を吸収しているとかつては考えられていました。しかし、TransComグループが大気輸送モデルを用いた逆解法解析を行い、南大洋のCO2吸収量は以前の推定のおよそ半分であると主張したために、世界の研究者の関心を集めることとなりました。
今回8カ国の研究者が参加し、昭和基地を含む南極周辺の11地点、それ以外の40地点でのCO2データを用いた逆解法解析と、全球海洋循環生物化学モデルによる海洋炭素循環の数値実験を行い、南大洋のCO2吸収を評価し、その時間変化の原因を考察しました。 →続きはこちら
No.5
自動車から放出される一酸化二窒素のアイソトポマー比を用いた解析
一酸化二窒素(N2O)は温室効果気体のひとつで、二酸化炭素(CO2)と比べると大気中の濃度は1/1000ほどですが、同じ質量で100年の時間スケールで比較するとCO2の約300倍の温暖化能力をもっています。地球大気の平均N2O濃度は現在約320ppb(ppb = 10-9、10億分の1)で約1ppb/年の速度で増加しており、その原因として、農業・畜産業、山火事、工業などの人間活動の影響が指摘されています。
アイソトポマー比とは、分子内にさまざまな同位体を含む分子(アイソトポマー)の存在比のことで、対象とする物質の起源や、受けてきた反応の履歴などの情報を保持する有用な指標です。本研究では、燃焼起源のひとつである自動車排ガスの特徴づけを行うとともに、アイソトポマー比が化学反応に固有の変化を示すことを利用して、ガソリンの燃焼や三元触媒における排ガス浄化過程でN2Oの生成または消滅がどのように起きているのかを調べました。 →続きはこちら
No.4
二酸化炭素濃度の鉛直分布から推定された新たな陸域炭素収支像
現在、化石燃料の消費や熱帯域における森林破壊によって大量の二酸化炭素(CO2)が放出されており、その一部が大気に残留し、大気中濃度を増加させています。残りのCO2は陸上植物と海洋に吸収されているはずですが、その量と分布が正確に分かっていないことが今日の炭素循環の理解における大きな懸案です。
今回、世界で航空機観測を行っている研究者がデータを持ち寄り、CO2濃度の鉛直分布の観点から、地表での観測結果を用いて逆解法解析によって推定された陸域CO2収支を改めて検討しました。 →続きはこちら
No.3
南極氷床コアの精密年代決定
〜北半球への日射量が南極の気候変動に影響を与える?〜
南極大陸は、厚さ数kmもの氷で覆われています。これを垂直に掘り出した氷の柱(氷床コア)は、数十万年にわたる地球の気候変動を保存した”タイムカプセル”です。今回、南極で掘削されたドームふじコアとボストークコアに含まれる空気の解析結果から、36万年間にわたるコアの年代を正確に求めることに成功しました。新しい年代軸に立って見えてきたのは、寒冷期(氷期)から温暖期(間氷期)に移るためのきっかけが、北半球の夏の日射量であるということです。過去4回の氷期が終わるとき、まず北半球の夏の日射量が増大し始めて、それから数千年経ってから南極の温暖化と大気中二酸化炭素濃度の上昇が始まったことが分かったのです。 →続きはこちら
No.2
フィルン空気分析より得られた20世紀後半における
大気中一酸化二窒素濃度及びδ15Nとδ18Oの時間変動
南極やグリーンランドの表面は場所によっては3000メートルにも及ぶ分厚い氷で覆われています。それは数十~数百万年の長期間に渡って雪が降り積もることにより、雪自身の重みで圧縮され氷になったものです。その氷の表面部分は、氷になる前段階の通気性のある層となっており、フィルン層と呼ばれています。フィルン層は降雪によって厚さを増してゆき形成されますが、その過程で大気中の成分をそのフィルン層内の隙間に保存してゆきます。その結果、フィルン層内の隙間には深いところほど昔の(古い)空気が蓄えられています。本研究ではその、フィルン層が過去の大気成分の情報を保存しているという性質を利用して、フィルン層内の空気を深さごとに採取してきて分析することにより、過去の大気成分の変動を再現しました。 →続きはこちら
No.1
成層圏で見出された大気主要成分の重力分離と酸素濃度の経年減少
二酸化炭素(CO2)は、地球温暖化にとって最も重要な温室効果気体ですが、現在のところ、人間活動によって大気に放出された量のうち、海洋と陸上植物圏に吸収された量が十分な精度で見積もられておらず、今後の濃度増加を予測する上で大きな問題となっています。
この問題の解決にあたって、大気中の酸素(O2)濃度を高精度で測定することにより、地球規模のCO2の循環を定量的に見積もる方法が新たな手法として注目されています。 →続きはこちら