物質循環研究グループのこれまでの歩み
本研究グループは、理学部天文および地球物理学科第二(現在の理学部宇宙地球物理学科)の気象学講座に源を発しております。1977年に講座のセミナーにおいて重要な温室効果気体である二酸化炭素(CO2)濃度の長期的増加を取り上げ、それがきっかけとなりCO2の研究を始める事になりました。当時、CO2濃度の系統的観測は世界でも極めて限られており、その計測についての情報はわが国においては皆無といった状態でした。そこで、私たちは独自に世界最高精度の濃度計測法の開発を行い、それを基に1978年11月に仙台青葉山で連続観測を、1979年1月に小型チャーター機及びジェット旅客機を用いた航空機観測を日本上空で開始しました。
その後、我々のグループは1979年4月に理学部附属超高層物理学研究施設(現理学研究科附属惑星プラズマ・大気研究センター)に設置された気候物理学部門に移動し、さらに1990年6月に理学部附属(現理学研究科附属)大気海洋変動観測研究センターを新設して、今日まで研究を継続してきました。この間、研究の対象をCO2からさらにメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、一酸化炭素(CO)、六フッ化硫黄(SF6)、水素(H2)、酸素(O2)の濃度、それらの同位体比に拡大し、高度な計測技術を確立して広範多岐にわたる研究を展開してきました。
大気については、南極昭和基地、富士山頂、沖縄本島北部、北極ニーオルスン基地、中国における8地点での地上観測、日本-北米、日本-中米、日本-オーストラリアに就航しているコンテナ船を用いた観測、日本近海でのフェリーを用いた観測、仙台-沖縄間及び日本-アラスカ、日本-シドニー間を往復するジェット旅客機を用いた観測、シベリアや昭和基地での航空機観測、日本や南極、スカンジナビア半島上空の成層圏での大気球観測を実施し、単独の研究機関としては世界で最も広域にわたる観測網を構築しました。
また、現在の大気の観測に加え、南極やグリーンランドで掘削した氷床コアに含まれる空気や、氷床上部に存在するフィルン層の空気を分析することによって、人間活動に伴うここ数百年の温室効果気体の変動を詳細に復元するとともに、過去72万年にわたる氷期—間氷期変動を明らかにし、その原因を考察しました。さらに、CO2にとって海洋は重要な貯蔵庫ですので、太平洋、インド洋、グリーンランド海、南極海などで観測を行い、その結果を基に大気と海洋との間でのCO2交換過程とその量について研究を実施しました。
以上のような観測・分析から得られた結果を解析することにより、それぞれの温室効果気体の全球規模にわたる空間変動と時間変動の実態を明らかにしました。さらに、全球炭素循環モデルや全球三次元大気輸送モデルを開発し、それらを用いて大気中の濃度と同位体比の変動を定量的に解釈するとともに、地球表層での温室効果気体の発生と消滅の過程を検討し、全球および地域別の収支の時間変動を推定する研究を行ってきました。