観測項目
二酸化炭素(CO2) | メタン(CH4) | 一酸化二窒素(N2O) | 一酸化炭素(CO)
六フッ化硫黄(SF6) | 酸素(O2) | CO2の炭素同位体 | CH4の炭素・水素同位体
二酸化炭素の炭素同位体比
二酸化炭素には炭素の質量が異なった3種類の同位体(12CO2、13CO2、14CO2)が存在しており、それらの自然界でのおよその存在比は1:1×10-2:1×10-12です。14CO2は放射性の同位体であり、その14Cは、大気上層で一次宇宙線によって生成された二次宇宙線に含まれる中性子と大気の窒素から作られ、5730年の半減期で崩壊して行きます。したがって、太古に作られた化石燃料には14Cは含まれていませんので、化石燃料起源の二酸化炭素と現代に作られた二酸化炭素とを区別するために用いることができます。また、大気と海洋の二酸化炭素交換や海洋中での二酸化炭素の輸送の推定にも重要な情報をもたらします。
12CO2と13CO2はいずれも安定炭素を含んでおり、測定すべき試料の両炭素の比は、通常、標準物質の炭素比からの相対値
として表されます。上図に示したように、二酸化炭素の貯蔵庫である大気、海洋、陸上植物や化石燃料起源の炭素のδ13C値は異なっており、大気—海洋間、大気—陸上生物圏間で二酸化炭素が交換された場合、異なった分別を受けるので、大気中の二酸化炭素のδ13Cは、両者の交換量を分離して推定する上で大変役立ちます。その一例を下に示します。
左図は、航空機を用いて日本上空で観測された二酸化炭素のδ13Cの変動です。二酸化炭素の項で示した濃度の変動と比べてみますと、季節変化や経年変化、それに重畳する年々変動がほぼ逆になっていることが分かります。季節変化と年々変動が濃度と逆位相になっていることは、これらの変動が主に陸上生物圏の活動によって生み出されていることを意味しており、また経年的なδ13Cの減少は、化石燃料消費あるいは森林破壊によって二酸化炭素が放出されていると考えると理解できます。
下図は、濃度とδ13Cの変動を解析することによって得られた全球平均の陸上生物圏と海洋の二酸化炭素フラックスです。陸上生物圏のフラックスは、エルニーニョ現象の発生および気温とよく対応して変動していますが、1991年にピナツボ火山が噴火した後は、エルニーニョ現象が発生したにも拘らず陸上生物圏が二酸化炭素を吸収しています。これは、火山噴火に伴って気温が低下し、陸上生物圏の光合成が呼吸を上回ったためと考えられます。一方、海洋のフラックスは、陸上生物圏と比べて時間変動が小さく、エルニーニョの発生との相関も陸上生物圏ほどはっきりしていません。