* 大気海洋間のCO2交換について

人間活動によって放出されるCO2は、一部は大気中に残存し、残りが陸上と海洋に吸収されます。私たちの大気中CO2濃度とその炭素安定同位体比(δ13C)の解析から、海洋全体としては年間1.8±0.7[GtC/yr]のCO2を吸収している事が明らかになりました。私たちの研究室と国立極地研究所は共同で、全海域の中でも主要なCO2の吸収域であると考えられているグリーンランド海・バレンツ海の観測を1992年〜2001年の間に計9回行い(図1)、海域全体の年間のCO2吸収量とその季節変化を評価しました。また、2001年からは国立極地研究所の南極海専用観測船プロジェクトに参加し、夏期南極海の表層海洋中のCO2濃度測定と、各層の溶存無機炭酸測定のためのサンプリングを行いました。

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(左)図1:観測領域 (右)図2:グリーンランド海中央部(75˚N,0˚)におけるCO2分圧の季節変化

 

 * グリーンランド海・バレンツ海の大気海洋間CO2交換

グリーンランド・バレンツ海で1992年から2002年に行われた観測結果を用いて、これらの海域で時間空間的に連続な海面CO2分圧とCO2フラックスの推定を行いました。再現された海面CO2分圧の時系列変化(図2)は、他研究の観測や計算結果とも良い一致を示しました。この結果によると、グリーンランド・バレンツ海の年間CO2吸収量は0.050[GtC]に達しました(図3,4)。これは海洋全体で推定されているCO2吸収量のおよそ2.8%に相当しており、全海洋中に占めるグリーンランド海、バレンツ海面積の割合が0.5%程度である事を考えると、これらの海域がCO2の大きな吸収源であることが分かります。また、吸収量の変動には春期の海洋生物活動や秋期から冬期にかけての鉛直混合による海面CO2分圧の変動と風速の変動が大きく影響を及ぼしている事が明らかになりました。

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(左)図3:グリーンランド・バレンツ海の大気から海洋へのCO2吸収量の季節変化。二酸化炭素の吸収量は、大気と海洋中の二酸化炭素分圧の差(δpCO2)とガス交換係数(風速の関数)の積によって算出します。
(右)図4:グリーンランド・バレンツ海の年間CO2吸収量分布。注釈:ほぼ全域で、強いCO2吸収が見られますが、緯度が高くなるにつれて海氷の影響でCO2交換が阻害され、吸収量は減少します。

 * 南極海での観測

南極海観測では、連続的にCO2濃度測定が可能な装置を用いて、広範囲な夏期の海面CO2分圧を把握し、冬期から夏期までの大気海洋間のCO2交換量について見積もる事を目指しています(写真1,2)。

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写真1:海洋表層中のCO2濃度連続測定装置。4本の基準となるCO2ガスボンベを使用して、海水中のCO2濃度と平衡に達した空気(平衡空気)のCO2濃度を連続で測定します。
写真2:ニスキン採水ボトル付きCTD(Conductivity-Temperature-Depth)による採水&観測。ニスキンボトルは開いたまま海中へと投下され、目的の深度に達した時に船上から信号を送り、ボトルを閉じます。引き上げられたボトル中の海水サンプルは、大気の空気と混じらないように注意深くガラス瓶に詰め、実験室に持ち帰り、溶存無機炭素量とその炭素安定同位体比の測定を行います。