地球の陸上の1/3を占める森林は大気中のCO2の吸収源としての役割を果たしていると考えられています。森林では植物が光合成によってCO2を吸収する一方、植物や土壌から呼吸としてCO2が放出され、森林の吸収能はその両者のバランスで決まっています。近年様々なタイプの森林において、森林上から森林内へ移動するCO2の速度を測定することで吸収能を調べる研究が行われてきました。しかし、今後地球環境の変化に伴って吸収能がどのように変化するかを予測するためには、光合成と呼吸のそれぞれの寄与や、そのバランスの変化を引き起こすプロセスを理解する必要があります。

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図1 左:森林大気中のCO2濃度の季節変化。 中央:同CO2の炭素同位体の季節変化。右: 同CO2の酸素同位体比の季節変化。
(いずれも2001年蔵王山麓観測サイトの結果)

森林大気中のCO2の変化は光合成、呼吸の活動と密接に関係しています。図1(上)は日本の落葉広葉樹林内におけるCO2濃度の季節変化です。夏期には光合成によってCO2濃度が減少し、冬期には呼吸が卓越するためCO2濃度が上昇しています。ところで、CO2分子(12C16O2)には重さの違う13CO2とCO18Oの同位体分子が存在し、13CO2/CO2 (=13C/12C)、CO18O2/CO2 (=18O/16O)の比はそれぞれ炭素同位体比(δ13C)、酸素同位体比(δ18O) と呼ばれています。光合成や呼吸によって植物や土壌と大気との間を移動するCO2は、大気中に存在するCO2とは異なった炭素・酸素同位体比を持っているので、大気中のCO2の炭素・酸素同位体比を変化させる働き(同位体分別)注1があります(図1中央、下)。そして最近の研究では、光合成・呼吸の同位体分別を利用することで、大気中のCO2濃度の変化に及ぼす光合成と呼吸の寄与を見積もることができると期待されています。しかし、未だその理論には不明瞭な部分があり、光合成と呼吸の見積もりや森林におけるCO2循環システムを理解するためには、今後さらなる検討が必要です。

私たちはこれまで3回の期間に渡って森林を対象とした観測を行っています。1994-1996年の観測注2では、森林内外の空気を採取し、光合成、呼吸の活動に応じたCO2濃度、炭素・酸素同位体比の日変化や季節変化を捉えました。また2000-2001年の観測注3では大気中や土壌中のCO2濃度・同位体の測定と共に、CO2の酸素同位体比に影響を及ぼす土壌水、降水、水蒸気といった森林中の水の酸素同位体比を調べ、光合成と呼吸のそれぞれの酸素同位体分別の大きさを推定する試みを行いました。さらに2004年からの観測注2では、光合成と呼吸の炭素・酸素同位体分別を利用して、森林大気中のCO2濃度の変化を引き起こすプロセスを詳細に調べ、森林におけるCO2循環システムを総合的に捉えることを目指しています。

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図2 高山の観測サイトの観測タワー(左)と土壌中のCO2採集の様子(右)

注1)CO2が植物に取り込まれるときに13Cよりも12Cの炭素同位体が吸収されやすいので、大気中の炭素同位体比は重く(13Cが多く)なり、逆に呼吸で炭素同位体比の軽い(12Cが多い)CO2が大気に放出される。酸素同位体についても光合成と呼吸で異なった同位体分別の効果を与える。
注2)岐阜県高山市郊外にある(独)産業技術総合研究所の観測サイト。
注3)宮城県蔵王山麓の観測サイト