~~~ 成層圏の大気を探る ~~~

図1: 南極昭和基地における成層圏大気採集実験の放球作業の様子クライオジェニックサンプラー(左手前)の重量は350kgあり、これを成層圏の高度35kmまで上昇させるためには容積30,000立方mの大気球が必要です。大気球にはヘリウムガスが注入されます。

図1: 南極昭和基地における成層圏大気採集実験の放球作業の様子
クライオジェニックサンプラー(左手前)の重量は350kgあり、これを成層圏の高度35kmまで上昇させるためには容積30,000立方mの大気球が必要です。大気球にはヘリウムガスが注入されます。

成層圏は対流圏の上端(平均高度11km)から高度約50kmの間に存在する大気層です。対流圏の大気は主に赤道域における活発な対流活動によって成層圏に侵入し、その後極向きに輸送され中高緯度で再び対流圏に戻ってくると考えられています。二酸化炭素(CO2)や六フッ化硫黄(SF6)などの温室効果気体は成層圏で安定であるので、その分布と変動は大気輸送によって決まります。このため、これらの気体の観測から得られる大気輸送に関する知見は、微量気体の発生・消滅量を定量的に評価するために用いられるグローバルな数値モデルの開発に不可欠な情報を与えます。また、メタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)などは成層圏に消滅源が存在するため、これらの気体の地球規模循環を知るには成層圏の観測が不可欠です。さらに、CO2は成層圏に消滅源が存在しないにもかかわらず、その同位体比は高度によって変化しており、成層圏におけるCO2と他の気体との化学反応過程を明らかにするために必要な情報を与えます。

私たちは1985年から大気球を用いて日本上空における成層圏大気の採集実験を続けてきました。さらに1997年にはスウェーデンのキルナで、また1998年と2003年には南極昭和基地で同様な観測を実施しました。大気採集装置はクライオジェニックサンプラーと呼ばれ、宇宙科学研究所によって開発されたものです。試料採集法の原理は、真空排気された容器を液体ヘリウムで-269℃に冷却し、容器に取り付けられたモーター駆動バルブを遠隔操作によって開閉することによって、大気を容器内部に凍らせて固体として捕集するというものです。この方法によって希薄な成層圏大気を効率よく大量に採集することができます。サンプラーには試料採集容器が12本格納されており、通常1本につき大気圧に換算して20-30リットルの大気を採集します。採集された試料は実験室に持ち帰られ、各大気微量成分について分析がなされます。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)のサイトにも、詳しい紹介があります。是非ご覧下さい。→JAXA 大気球観測センターのページ

 

~~~ 大気球による観測結果 ~~~

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図2: 三陸上空の成層圏におけるCO2濃度の鉛直分布

図2は三陸上空の成層圏におけるCO2濃度の鉛直分布です。観測値は1985年から2002年までのものを示してありますが、明らかに成層圏でもCO2濃度が年々増加してきている様子が確認できます。CO2は20~25kmより下の領域では高度が低いほど濃度が高くなっていますが、20~25kmより上ではほぼ一定の濃度になっています。CO2が成層圏でほとんど生成したり消滅したりしないことを考えると、このような鉛直分布の特徴は大気の輸送の特性によってできたものであるということができます。成層圏の大気は熱帯対流圏から成層圏に侵入しその後極に向かって輸送されるということは既に述べましたが、対流圏で現在CO2濃度が上昇し続けていることを考慮すると、成層圏においてCO2濃度が高いほどその大気が対流圏から成層圏に侵入した年が遅い(大気の年代が新しい)と言えます。そして三陸上空の20~25km以下において下の方ほどCO2濃度が高いということはそれだけ大気の年代が新しいということであり、このことから下の方ほど熱帯域から極方向への大気の輸送速度が速いということが言えます。また、20~25kmより上でCO2濃度が一定なのは、この領域において鉛直方向の大気の混合がよく起こっていることが原因である考えられます。

次に図3に対流圏と成層圏におけるCO2濃度の経年変動を示します。対流圏のCO2濃度は日本上空の対流圏上部の年平均値であり、成層圏のCO2濃度は図2で見たようにCO2濃度が一定になる領域における平均値です。これを見ると、対流圏のCO2の変動に続くように成層圏でもCO2が変動しています。細かく見ていくと、1993年頃にピナツボ火山の噴火によって対流圏のCO2濃度の上昇が停滞していますが、この影響が約4年後の1997年頃に三陸上空成層圏のCO2濃度上昇の停滞となって現れています。つまり、対流圏の大気が平均して約4年の月日を経て、三陸上空の20~25km以上の成層圏まで運ばれていることがこの図から言えます。また、キルナ上空と南極昭和基地上空のCO2濃度を見ると、両者は三陸上空のCO2濃度のトレンドとよく一致しています。このことは、成層圏において中緯度と極域の大気がよく混合されていることを示しています。

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図3: 対流圏と成層圏におけるCO2濃度の経年変動