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図1 数値モデルの概念図

二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などの温室効果気体の変動や収支を明らかにするためには、「いつ、どこで、どれだけの気体が放出・吸収され、結果として大気にいくら残るのか」を正しく評価する必要があります。そのためには、温室効果気体の濃度や同位体比を地球規模で測定し、その結果をコンピューターによって解析する方法が最も有効であり、それには物質循環モデルの開発が不可欠です。

温室効果気体は陸上や海洋から放出され、大気の流れによって輸送され、再び陸上や海洋で吸収されたり、大気中で消滅されたりします。私たちは、温室効果気体のこのような性質に着目し、地球の大気の流れをスーパーコンピューターで計算できるように数値化したモデル(「全球3次元大気輸送モデル」と呼んでいます)を開発し、大気中における二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などの変動をシミュレートすることによって、それらの放出源・吸収源の強度の時間・空間変動を定量的に求める研究を行っています。その概念を図1に示します。

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図2: モデル解析から推定された全球および半球規模の海洋と陸上生物圏の二酸化炭素フラックス

図2は、全球3次元大気輸送モデルと逆解法という解析法を用いて求めた、1988年1月〜2001年12月の全球、南・北半球中高緯度域、赤道域での海洋と陸上生物圏の二酸化炭素フラックスです。この解析では、地球を64分割(陸域を42、海域を22)し、世界87地点での二酸化炭素濃度の観測値を再現するように月毎のフラックスを求めました。この結果は、1990年代の海洋と陸上生物圏による平均的な年吸収量が、それぞれ1.9GtC(GtCは炭素換算で10億トンを意味します)と1.2GtCであることを示しています。また、フラックスは一定している訳ではなく、時間とともに不規則に変動しており、その変動は特にペルー沖で数年毎に発生するエルニーニョ現象とよく対応しています。

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図3: 全球大気輸送モデルによって計算された7月の地上付近のメタン濃度分布

図3は、全球3次元大気輸送モデルを用いてメタン濃度をシミュレートした結果の一例です。メタンは陸上に存在する湿地や水田、家畜などから放出され、主に大気を輸送されている間にOHラジカルとの反応によって消滅されます。このシミュレーションでは、これらの過程を数値モデルとして表現し、適切な初期条件を与えてコンピューターで計算することによって、大気中のメタン濃度を計算しました。全体の分布を見てみますと、南半球よりも北半球で濃度が高くなっていることが分かります。これは、北半球での自然起源および人為起源のメタンの放出が多いことを反映したものです。

産業革命以降、人間活動が活発し、人為起源の温室効果気体の放出が急速に増加しており、地球温暖化に対応するためには、その循環の定量的評価が急務となっており、高度な循環モデルによる解析が強く望まれています。